共和メディカル株式会社
掲載情報のご提供重度障害や難病などにより、外出や通勤が難しくなった人でも、遠隔から接客や仕事に参加できる分身ロボット「OriHime」。
弊社が開発・提供するこのOriHimeは、カフェ接客や受付、講演活動など、さまざまな場面で活用されており、“移動困難者の新しい働き方”として広がり始めています。
今回紹介する山﨑拓弥さん(パイロットネーム:タクヤさん)も、そのOriHimeを使って働く「パイロット」の一人です。
事故により脊椎損傷という障害を負って寝たきりとなってしまい、かつて続けていた接客の仕事を諦めざるを得なくなったタクヤさん。
しかしOriHimeでの社会復帰の可能性に注目し、実際に雇用へとつなげたのが、医薬品卸、薬局運営等の医療関連事業を展開する共和メディカルでした。
タクヤさんは現在、共和メディカルでOriHimeを通じて再び接客の現場に立ち、講演や情報発信など幅広く活動しています。
なぜ分身ロボットで働く人を採用したのか。
そして、OriHimeが本人や周囲にどんな変化をもたらしたのか。
タクヤさんと共和メディカル広報担当の上村夏美さんの双方に、取り組みの背景と現在について伺いました。
Contents
「もう現場には戻れない」——事故で失った“接客の仕事”
タクヤさんは事故前、大手チェーンの居酒屋で約7年間働いていました。副店長として、調理場とホールの両方に立ち、接客にも携わっていました。

タクヤさん「お客さんとの会話や、その場その場の出会いの面白さがあり、気遣いを大切にしながら働いていました。」
── 事故後、生活はどのように変わりましたか?

最初はあまり実感がわかず、『朝から夜中まで働かなくていいんだ』と感じていた一方で、時間が経つにつれて『もう一生働けないのではないか』という深い絶望と将来への不安に変わっていきました。」
「もう一度、接客がしたい」——分身ロボットとの出会い
── OriHimeを知ったきっかけは何でしたか?

タクヤさん「病院に入院していた際、リハビリの先生からOriHimeやオリィ研究所のことを知りました。
怪我をしてからしばらくはスマートフォンも使えず、テレビを見るだけの生活でした。
2〜3か月後に理学療法士さんがスマホを使えるように設置してくれ、更に専用のスタイラスペンを作ってくださり、それを口に加えてスマホを操作できるようになりました。そしてOriHimeの存在を知り、SNSで情報を追うようになりました。
パイロットの募集は、応募締切の1週間前に偶然SNSで見つけ、何だか面白そうだという直感で応募しました。」
── 初めてOriHimeを見たときの印象は?

タクヤさん「『思っていたより小さい』と感じました。操作してみると、実際にその場にいるような感覚がありました。
以前接客していたので懐かしいと思いました。まさかまた接客ができるとは思っていなかったです。」

ロボット越しでも伝わる“接客の力”
── OriHimeで接客する中で工夫していることや印象に残っている接客エピソードはなんですか?

タクヤさん「接客の際には、操作のタイムラグを考えてOriHimeを早めに動かしたり、話しながらうなずく動きを意識するなど、工夫しています。
印象に残っていることとしては、分身ロボットカフェでの接客で、お客さんと写真を撮ることもあったのですが、その写真を見返したときに、自分ではなくOriHimeが写っているので、『そういえば自分はロボットだったな』と不思議な感覚になりました。」
── 企業側はどのように出会ったのでしょうか?

上村さん「2016年に、当社代表の杉浦が吉藤さんの講演を聴き、『障害があっても働ける職場(居場所)つくり』に共感したことが始まりです。
当社は『健康を通して社会に奉仕する』を基本方針にしており、障害を持つ方の就労機会の少なさも社会の課題として考えていました。
そこで、すぐに当社代表と役員の2名でオリィ研究所に赴き、協賛のお話をさせていただきました。」
── 初めてタクヤさんの接客を見たとき、どんな印象を持ちましたか?

上村さん「飲食店での接客経験を持つパイロットがいると、山﨑さんをご紹介いただき、最初のテスト運用で、当社の訪問看護ステーションが開催している体操教室に、OriHimeで参加してもらいました。
すると、参加していたご高齢者から『山﨑さんが頑張ってるから私も頑張る!』『山﨑さんに会うためにまた来ます』と前向きなお言葉をいただき、周囲の人を勇気づける力を持っていると実感しました。」

なぜ採用に至ったのか——企業が見た可能性
── 採用を考えたきっかけは何だったのでしょうか?

上村さん「先程の体操教室での出来事もそうですし、絶望的な状況を乗り越えて社会参加しようとする姿勢が、従業員にも良い影響を与えると感じたからです。
人とコミュニケーションをとる業務が多い中で、ロボットを介して接客対応できるのか?という議論もありましたが、当社は多職種展開しているため、どこかで活躍の場はあると考えていました。」
── 共和メディカルから声がかかったとき、どんな気持ちでしたか?

タクヤさん「まず、また仕事ができることが嬉しかったです。しかも期間限定ではなく、雇用されて継続して働けるという点に大きな意味を感じていました。
自分がパイロットとして就職する第一号だったこともあり、『ここで終わらせず、自分が続けることで後に続く人が増えたらいいな』という思いも強くありました。
共和メディカルの皆さんもこの取り組みを前向きに受け止めてくださっていて、その中で働けること自体に楽しさを感じていました。」

OriHimeが広げた“働く場所”
── 現在はどのようなお仕事をされていますか?

タクヤさん「現在は、チーズケーキや焼き菓子、ランチを提供する店舗での接客業務のほか、大学や医療系の専門学校での講演活動や、SNSでの発信などを行っています。
講演では、共生社会についてやリハビリの経験、OriHimeでの仕事などについて伝えています。
それに加え、大阪関西万博に出展した際は、ブースでの接客なども経験することが出来、活動の幅は広がっています。」
また、ある生徒から「障害のある友人への関わり方が、おせっかいになっていないか」と相談を受けた際には、自身の経験を踏まえてこう答えたといいます。

タクヤさん「事故直後、自分のもとにお見舞いに来なかった人の中には、気を遣って来なかった人もいたのではないかと感じることがありました。
ただ、来てもらえなければ、その人は『来なかった人』として記憶に残ってしまいます。
おせっかいかもしれないけど、まずはアクションしてみることも大事だと思います。行動することで、何かにつながることもあると思うので。」
── 働く中でやりがいを感じる瞬間は?

物理的にも金銭的にも、誰かの役に立つことが難しいと感じることもありましたが、仕事をするようになってからは、人の役に立ったり、誰かにプレゼントを贈ったりできるようになりました。」
企業にとっても新しい挑戦だった
── 実際に一緒に働いてみて、どのような価値を感じていますか?

上村さん「分身ロボットのパイロットを雇用した最初の企業だったこともあり、当初は多くのメディアに取り上げていただきました。
結果として、OriHimeや障害のある方の新しい働き方の認知拡大に貢献ができたと思います。」
── 社内の反応や変化はありましたか?

上村さん「導入当初は、『よく分からないものを導入する』という戸惑いが社内にもありました。
しかし、実際に一緒に働く中で、山﨑さんのトークスキルがどんどん向上したこともあり、今では従業員みんなが抵抗なく会話してくれています。また、社内報で山﨑さんがOriHimeで従業員へインタビューを行うなど、OriHimeが社内にあるのがあたり前になっています
新卒採用の場でもOriHimeの話題が学生の関心を引くなど、社内外での影響が広がっています。
OriHimeを介して関わることで、“障害者というフィルター”が薄れ、自然なコミュニケーションが生まれていると感じています。」
── 想定していなかった良い影響はありましたか?

上村さん「講演や接客を通じて、学生や障害のある家族を持つ方々から、学びや刺激を得たという前向きな感想を直接いただけることです。
さらに、企業や学校とOriHimeを通じて新しい繋がりができ、講演のリピート依頼がくるようにもなっています。」

「どんな状況でも、人は社会で活躍できる」
今回の取り組みを通じて見えてきたのは、「一歩を踏み出すこと」の意味と、その先に広がる可能性でした。
タクヤさんは、同じような境遇にある人に向けて、こう語ります。

タクヤさん「前例がないことに挑戦するのは不安もあると思いますが、あまり気にせず、まずは一歩踏み出してみてほしいです。」
最初の一歩には勇気が必要です。それでも、その行動が新しい選択肢やつながりを生むきっかけになるかもしれません。
一方で、受け入れる企業側の視点も重要です。共和メディカルの上村さんは、制度面の課題がある現状にも触れながら、次のように話します。

上村さん「社会制度の課題はありますが、導入する企業が増えることで、OriHimeという新しい働き方が認知され、社会全体が変わっていって欲しいと思います。」
個人の挑戦と、それを受け止める企業の動き。その両方が重なることで、少しずつ社会のあり方が変わっていく可能性が見えてきます。
また、OriHimeそのものへの期待についても、それぞれの立場から声が上がりました。
タクヤさんは、できることの幅がさらに広がっていく未来を思い描いています。

タクヤさん「もっとできることが増えていくといいなと思っています。
例えば、先の未来では物をワープさせられるようになったり、OriHimeを操作して僕自身をベッドから車椅子まで移動できるようになったりとか。
さまざまな機能が実現すれば、遠隔での働き方の可能性はさらに広がっていくと思います。
そして何より、OriHimeを使って働く人が増え、この働き方が当たり前の選択肢の一つになっていくことを期待しています。」
一方で上村さんは、より実務的な観点からの改善にも言及します。

上村さん「現在はモバイルバッテリーでの運用が中心なので、本体が充電式になるなど、より扱いやすくなるといいなと思います。
また、通信面ではWi-Fi環境に依存しているため、場所によっては利用が難しいケースもあります。
携帯回線などにも対応し、より安定して使えるようになることで、活用の幅はさらに広がっていくと考えています。
あとは、カラーバリエーションや質感のバリエーションが増えたり、外見の表現が豊かになることで、より親しみやすい存在になっていくのではないでしょうか。」


OriHimeを通じて再び“働く”ことと出会ったタクヤさん。その一歩は、個人の再出発にとどまらず、周囲の人の意識や行動にも変化をもたらしていました。
また、共和メディカルにとってもこの取り組みは、単なる雇用の枠を超え、社内外に新たな対話や価値を生み出すきっかけとなっています。
まだ発展途上にある働き方ではありますが、「働きたい」という意思と、それを受け入れる環境が重なったとき、可能性は大きく広がっていく——そんな未来の一端を感じさせる取り組みです。





