港区
掲載情報のご提供港区では、障害の有無や特性にかかわらず、誰もが安心して暮らせる「地域共生社会」の実現を目指し、2021年度から分身ロボットOriHimeを活用した就労支援事業を展開しています。通勤や対面での業務が困難な重度障害者の方々へ、ICT技術を活かした新たな働き方を提供するこの取り組みは、今年度で6年目を迎えました。
そして2026年4月、この事業に大きな一歩が刻まれました。港区在住のよっしーさん(堀江義也さん)が、特別支援学校在学中に出会ったオリィ研究所が実施する就労体験「OriHimeお仕事体験プログラム」や店舗実習を経て、念願の新パイロットとして正式に就労を開始したのです。
今回は、港区のご担当者様、はなみずきの店長様、そしてよっしーさんご本人に、これまでの軌跡とこれからの展望を伺いました。
【よっしーさんの就労までの歩み】
2025年8月:オリィ研究所が実施する就労体験「OriHimeお仕事体験プログラム」への参加(先輩パイロットとの研修)
2026年1月:港区役所の福祉売店「はなみずき」にて4日間の実習
2026年4月:港区のパイロットとして正式就労スタート
障害特性や通勤の壁を越える、行政としての「期待」と「変化」
── 2021年度に本事業を開始した背景や、当初抱いていた課題意識について教えてください。

港区ご担当者「働く意欲があるにもかかわらず、障害特性や通勤の壁によって就労に結びつかない方が多くいらっしゃる状況を、私たちは大きな課題と捉えていました。
そこでICTの進展を活かし、重度障害のある方や長時間勤務が難しい方へ新たな働き方を提供できないかと考えたのが始まりです。
OriHimeを通じて社会とつながり、これまで関わりのなかった方々との交流が生まれることを期待していました。」
── 今年度で6年目を迎えますが、区民の皆様や庁内でのOriHimeの受け止め方に変化はありましたか?

イベントでOriHimeと会話された方から『ロボットを通して社会と接点を持てるのは良いことだと思う』とお声をいただく機会もありました。今では『どこに行けばOriHimeと会えますか?次の勤務はいつからですか?』というお問い合わせをいただくこともあり、パイロットの皆さんにファンがつくほど、街の中にOriHimeが浸透してきているのを感じています。」

学校から社会へ。熱意が繋いだ「就労へのバトン」
── この春から港区在住のよっしーさんが新パイロットとして加わりました。一連のプロセスを振り返っていかがですか?

港区ご担当者「よっしーさんが研修や実習を乗り越え、新しい仲間として加わってくれたことが率直に嬉しく、ホッとしています。これまでの取り組みは、よっしーさんご本人の努力はもちろん、特別支援学校の先生方やご家族をはじめとする、周囲の皆様の協力があったからこそ結実したものです。
現在の教育現場ではタブレットの導入などICT化が非常に進んでいます。その環境で育った生徒たちが、卒業後の多様な選択肢の一つとしてOriHimeによる就労を選ぶ。今回のよっしーさんの就労は、今後のモデルケースの一例として、他の自治体にもこの輪が広がっていくことを期待しています。」
── 港区として、この事業の今後の展望や目指したい「街の姿」を教えてください。

港区ご担当者「今年度からは本事業を『みなと障がい者福祉事業団』へ委託し、事業団が主体となって実施する『マルシェ(就労継続支援A・B型事業所が民間企業等に訪問しての販売業務)』などに、OriHimeの活躍の場が広がっていくことを期待しています。
法制度上、週10時間未満の労働時間は障害者雇用率に算定されないという壁がありますが、このOriHime就労の積み重ねが、将来的な制度見直しへとつながる第一歩になればと考えています。これまで接点が限られていた障害者と、区民や区内事業者が交流できる機会を創出し、障害者就労がより街全体に良い影響を与えることができれば良いと考えています。」

現場で芽生える「販売員としての自覚」とスタッフの絆
── 「はなみずき」にOriHimeが導入された当初の印象はいかがでしたか?

はなみずき店長「最初は障害者福祉課からの依頼による試験的導入で、手探りでのスタートでした。ただ、事前に吉藤オリィさんの講演を聞いたときに、『こういう人が世の中にいるんだ』と本当に感動したのを覚えています。ですからOriHimeが来ることへの期待はとても大きかったです。
名前も容姿もかわいいロボットなので『子どもたちが喜ぶだろうな』と思う反面、『皆さんがどう受け止めるか』という不安もありました。実際、最初はお客様も自宅からの遠隔操作だと思っていない方が多かったんです。そこで私たちが『遠隔操作なんですよ』と改めてお伝えしていくうちに、皆さん理解してくださり、今ではお店の大切なパートナーになっています。」
── 1月によっしーさんが実習に来たときの第一印象はいかがでしたか?

はなみずき店長「声の印象がとても優しくて、初々しかったですね。事前に、他のパイロットの先輩たちが使っているお声がけのフレーズを伝えておいたのですが、本番ではそれを素直に一生懸命実践していました。
驚いたのは、お会計のシーンです。よっしーさんが画面越しに金銭のやり取りをしっかり見ていて、店頭のスタッフが声を出す前に、すぐに『お釣り、40円です!』と答えたんです。その集中力と仕事に対する意欲の高さには、スタッフみんなで感心してしまいました。」
── 4月に正式就労が始まってから、よっしーさんの成長を特に実感されている部分はありますか?

はなみずき店長「最近では、少し離れたところからお店の様子を窺っているお客様を見つけると、よっしーさんがOriHimeの手を振って自らアプローチしている姿を見かけるようになりました。
お店全体にしっかり気を配れていて、素晴らしい『販売員としての自覚と積極性』が芽生えているなと、日々成長を感じています。」
── 遠隔で働くパイロットと現場スタッフが連携する上で、工夫していることはありますか?

はなみずき店長「OriHimeは常に客席側を向いているので、孤独感を抱かせないように、業務の合間を見つけてはスタッフからこまめに話しかけるようにしています。出退勤時の挨拶やちょっとした雑談は欠かしません。
また、その日のおすすめ商品を紹介してもらうときは、実際にスタッフが商品を見せながら説明し、イメージを共有しやすいようにしています。音声が聞き取りやすいよう、現場でもはっきりと発音することは全員が心がけている工夫です。
いまやOriHimeパイロットの皆さんは、ただのロボットではなく、いるだけでお店の雰囲気を和ませてくれる大切な現場スタッフの一員。彼らの頑張る声を聞くと、私たちも『よし、頑張ろう!』とエネルギーをもらえます。」

「家から社会へ」一歩を踏み出したよっしーさんの声
── よっしーさんが「OriHimeパイロットとして働きたい」と思ったきっかけを教えてください。

よっしーさん「学校の先生から、卒業生(先輩パイロットのマサさん)が分身ロボットカフェDAWN ver.βで働いているお話を聞いたのがきっかけです。
それから『OriHimeお仕事体験プログラム』に参加しました。自分は外に出ることが難しいので、家にいながらお仕事ができる場所があると知って、『僕もやってみたい!』と強く思いました。」
── 研修や実習を振り返って、大変だったことや思い出はありますか?

よっしーさん 「最初の研修では、お客様とたくさんお話をしなければいけなくて、初めての経験だったのでとても大変でした。でも、先輩パイロットのカズーさんやようぽんさんのお話がとても上手で聞きやすかったです。今でもそのときの先輩たちの姿を思い出しながら、お手本にしてお仕事をしています。
1月に『はなみずき』で4日間の実習をしたときも、すごく緊張しました。『いらっしゃいませ』と声をかけるときはドキドキしましたが、思い切って声を出しました。OriHimeの操作も上手くできて、無事に終わったときはホッとしました。」
── 4月から正式にお仕事が始まって、どんなときにやりがいを感じますか?

よっしーさん 「いつも来てくれる常連のお客様が、画面の向こうから『こんにちは』って手を振って挨拶してくれるのが、何より嬉しいです。毎日来てくれる方もいるんですよ。僕もOriHimeを操作して、元気に手を振り返して挨拶しています。お客様が喜んでくれると、本当に嬉しくて『もっとお仕事を頑張りたいな、またお店に来てほしいな』という気持ちになります。」
── 働き始めて、ご自身の中で変化したことはありますか?

よっしーさん 「これまでは、知らない人と話すことがあまり得意ではなかったのですが、OriHimeを通してお客様とコミュニケーションが取れるようになったことが、自分自身の大きな自信になりました。少しずつですが、自分のペースで頑張れていると感じています。」
── 最後に、これから同じように就労を目指している人たちへメッセージをお願いします。

よっしーさん 「僕は外にあまり出られないので、特別支援学校の卒業後の進路をどうするか、すごく悩んでいました。でも、お仕事体験プログラムに勇気を出して参加したことで、家から仕事ができて、自分でお給料をもらえるようになりました。自分で稼いだお金を、自分の好きなことに使えるのって本当に嬉しいです!
一歩を踏み出すのは緊張すると思いますが、もし進路に悩んでいる方がいたら、ぜひOriHimeの体験をしてみてください。」

自宅にいながら、街の売店の「看板スタッフ」として活躍するよっしーさん。彼の優しい声と、それを温かく迎える店舗スタッフや地域のお客様の間に確かな信頼関係が生まれています。行政、学校、現場、それぞれの協力で実現したこの取り組みは、これからの地域福祉に新しい可能性を示しています。





