江東区
掲載情報のご提供令和6年6月に江東区でスタートした、分身ロボットOriHimeの活用事業。
区役所内にある障害者施設の手作りショップ「るーくる」にOriHimeを設置し、自宅などから遠隔で操作する「OriHimeパイロット」が店頭での接客を担当。約2年間にわたり、外出が困難な方々がOriHimeを通じて就労し、地域の人々とのつながりもうまれています。
今回は、この取り組みを推進する江東区のご担当者様と、実際に「るーくる」で接客を行う2名のOriHimeパイロットへのインタビューを実施しました。
自治体としてOriHimeを導入した背景から、約2年間で見えてきた店舗の変化や成果、そして社会とのつながりを得たパイロットたちのリアルな変化に迫ります。自治体による遠隔就労・社会参加支援のひとつのモデルケースとして、その価値と今後の展望をお届けします。
働く意欲を、社会とつなぐために。江東区の挑戦
── 令和6年6月に本事業を開始したきっかけや、当時の課題意識を教えてください。

江東区ご担当者「江東区では障害者の就労支援を進める中で、特に重度障害等の理由で外出が困難な方々が、働く意欲があっても就労機会につながりにくいという現状がありました。
また、就労だけでなく、人との関わりや社会参加の機会そのものが限られてしまうケースもありました。
そうした状況の中で、オリィ研究所の分身ロボット「OriHime」が、他の自治体や都内の施設で活用されている事例を知りました。この分身ロボットを使えば、外出困難な方でも就労や社会参加の可能性があるのではないかと考えたのが、今回の導入のきっかけです。
就労への第一歩を踏み出す機会、また社会参加の選択肢を広げることを期待して、この事業を開始いたしました。」
── この2年間で、区民の皆様や庁内でのOriHimeの受け止められ方に変化は感じますか?

ただその一方で、当初は「AIが話しているロボットなのではないか」と思われている方が多く、OriHimeが一生懸命話しかけていても、素通りされてしまう場面が結構ありました。
しかし、今では、区民の方や江東区の職員が自然に会釈をしたり、話しかけたりする場面が増えてきています。また、「るーくる」の常連のお客様が、特定のパイロット(OriHimeの操作者)さんとの会話を楽しみに来店されるというケースも最近は増えてきました。単なるロボットとしてではなく、その先にいる人との「コミュニケーションツール」として認識されていると感じており、地域における障害理解や共生社会の理解にもつながっていると実感しています。」
── パイロットの皆さんに見られた変化で、特に印象に残っていることはありますか。

こうした取り組みによって、単に業務をこなすというだけでなく、パイロットが『自分がこの店舗の運営を支えている』という認識や自信につながっているのではないかなと感じています。」
── 事業を続けてきて、当初の期待と比べてどのような変化や気づきがありましたか?

具体的には、OriHimeの前に各障害者施設が作った「推し商品(PR商品)」を日替わりで置き、OriHimeのパイロットがその説明を行うという取り組みをしました。それまでは正直なところあまり売れていなかった商品でも、パイロットによる丁寧な魅力紹介で手に取ってくださるお客様が増え、それが売上に貢献したのだと考えています。
また、働くことを諦めていた方や、就労に向けた具体的なビジョンがなかなか描けなかった方々が、このパイロット経験を通じて仕事への意欲を持つようになったことが大きな成果だと感じています。単なる就労支援という枠組みを超えて、自己肯定感や社会とのつながりを生み出す効果の面で、導入後の広がりはとても大きかったです。」

一歩踏み出すことで世界は広がる。パイロットたちのリアルな声

実際に「るーくる」で働く2名のパイロット、わっぴーさんとうっしーさんにもお話を伺いました。
1人目のパイロットは、OriHimeのことは今回働くにあたって初めて知ったわっぴーさん。
── 最初にOriHimeを知ったきっかけや、パイロットに応募した理由を教えてください。

わっぴーさん 「2年ほど前から障害によって働くことが難しい状況でした。そんな中でも一般就労や障害者雇用など仕事を探していた時、たまたま江東区のホームページで事業の募集を見ました。
それまでOriHimeのことは全く知りませんでしたが、募集要項を見てこの仕事ならできるかもと思ったんです。
まだ外出してフルタイムの勤務は難しかったので、在宅でできることや、OriHimeを通じて社会参加できることに魅力を感じて応募しました。ロボットを使う、ということにちょっと惹かれたというのもあります(笑)」
── 実際に働き始めて、難しかったことや新たな気づきはありましたか?

わっぴーさん「接客業に携わったことがないので、どういう会話をしたらいいのか不安と期待がありました。働いている今でも、お客様のお召し物が素敵なときなどに何と言っていいか、瞬発的に言葉選びをするのが難しいです。会話の糸口や声かけのしかたは自分でも勉強しています。
会話をしながらOriHimeを操作するのも難しかったですが、こちらもだんだんとできるようになっていると感じています。」
── OriHimeで働くやりがいや楽しさはどんなところに感じていますか?

わっぴーさん「OriHimeをご存じないお客様が、声かけ次第で会話が生まれるのがやりがいです。
どこから声が出ているかわからないお客様もいる為、近くに来てから話しかけるとびっくりする人もいます。なので、できるだけずっと何かを話しているようにしています。お客様を驚かせないように遠くにいる時から声をかけるのがコツです。
婚姻届けを出した直後のご夫婦とお話ができたのですが、そういった機会はなかなかないと思います。貴重な機会に触れられるのもこのお仕事の特徴だと感じています。」
── 働き始めてから、生活や気持ちに変化はありましたか?

わっぴーさん「薬の影響で朝が弱いのですが、午前中のシフトが多いため、夜早く寝て朝早く起きるというメリハリがつきました。」
── 最後に、これから同じように就労を目指している人へメッセージをお願いします。

わっぴーさん「いろいろな事情を抱えていてなかなか踏み出せない人もいると思いますが、踏み出さないと何も変わりません。踏み出すことが大事です。オリィ研究所の人は優しく手厚くフォローしてくれるので、踏み出す場所にはとてもいいと思います。」

2人目のパイロットは、障害があるけれど働きたいとの想いを長年持っていたうっしーさん。
── 最初にOriHimeを知ったきっかけや、パイロットに応募した理由を教えてください。

うっしーさん「私は後縦靭帯骨化症で自力では歩けず、両手に杖を突いています。10年くらい前に、階段昇降できる車椅子がないかなと調べたときにたまたまOriHimeを見つけて、その時からオリィ研究所のSNSをずっと見ていました。
そこでは障害のある人がたくさん活躍している様子も見ており、私も働きたいとずっと思っていて、母が亡くなった日に偶然江東区の募集を見つけたんです。母がめぐり合わせてくれたのかなと思い、1週間悩んでまずは応募してみようと思って飛び込みました。」
── OriHimeでの仕事を始める前に、期待していたことや不安だったことはありましたか?

うっしーさん「退院してから10年以上自宅療養で、家族や病院の人など特定の人としか関わりが無かったので、いろんな人とコミュニケーションを取って働けるのか心配でした。
一方で、いろんなつながりが増えるかもという期待もありました。同じ会社で働く社員やパイロットの方々とのつながりができて、たくさんのことを見たり聞いたりして、自分の世界が広がることにも期待していましたね。」
── OriHimeで働くやりがいや楽しさ、また難しさはどんなところに感じていますか?

うっしーさん「色んな人に出会えるのが楽しいですし、障害があっても働けるという自信になりました。OriHimeはコミュニケーションロボットなので、自分を知ってほしいという気持ちだけでなく、相手のことを知ろうとする気持ちを大事にしながらお話しています。障害があるから仕方ないと思われるような仕事にはしたくないので、自分なりにこうしたらよくなるかな?と試行錯誤しています。
また、小さいお子さんだと『ロボットだ!』と言ってたくさん話してくれるんです。外で歩く練習をしていると道を空けられたり気を遣われたりすることばかりですが、小さい子だと障害とかっていう色眼鏡なしに純粋に見て話しかけてくれるのがうれしいですね。子どもって先入観なしでそのままぶつかってきてくれるので、すごいなあと感心しています。
話しながら機器を操作することにはいまだ慣れていません。右を向こうとして左を向いちゃったり。最初よりは出来るようになっていますが、まだまだ習得中です。」
── 働き始めてから、生活や気持ちに変化はありましたか?

うっしーさん「不眠症があって、2日に1日寝られたらいいと思っていましたが、毎日寝付けるようになりました。シフトに合わせて動けるようにしようとしていることがいいのだと思います。これまでは自分の体調で動いてしまうことが多かったのですが、仕事を始めてからは体調をシフトに合わせていくという考え方になり、生活にメリハリができました。
これからは、OriHimeで簡単な会話をすることから、もっといろいろなことを話せるようになりたいです。出来ることをふやして、自分の可能性を広げていきたいです。」
── 最後に、これから同じように就労を目指している人へメッセージをお願いします。

うっしーさん「一歩踏み出すのが大変だと思うけれど、やってみないとなにも始まりません。私も10年間SNSでパイロットの姿を見ているだけでしたが、自分から動き出したら世界が広がりました。私は10年がかりでやっと自分で行動を起こせました。あれもできない、これもできないと思っていましたが、ものすごい勇気を出してあの一歩を踏み出したら、テクノロジーや人、いろんな出会いがあって世界が広がったということを伝えたいです。」

誰もが関わり合える社会へ。次なる挑戦
「障害の程度や体調によって外出が難しくなっても、働く機会や社会とのつながりを失わずにすむ。それが私たちの目指す理想です 」と江東区のご担当者様は語ります。
OriHimeを通じて、障害の有無にかかわらずコミュニケーションが生まれることで、共生社会の理解につながる点に可能性を感じているといいます。
最後に、OriHimeの導入を検討している他の自治体の読者の方へ向けたメッセージをいただきました。

江東区ご担当者「導入前はどのような効果が得られるか手探りでしたが、結果としてパイロットの社会参加・就労意欲の向上・区民との交流促進・店舗の活性化など多面的な効果が得られました。
OriHimeは単なるロボットではなく、人と人とを繋ぐコミュニケーションツールであると感じています。障害者福祉や障害者就労の新たな選択肢として導入を検討する自治体の参考になれば幸いです。」
分身ロボットが紡ぐ、人と人との新しいつながり。江東区とパイロットたちの挑戦は、これからも多くの人々の背中を優しく押し続けていきます。






