探究授業

「グローカル・探究授業」 —長崎県立口加高校の実践レポート

長崎県最南端に位置し、全校生徒約204名が学ぶ長崎県立口加高校。
同校では、設置されている学科やコースの特色を活かしながら、フィールドワークや研究者との対面指導などを積極的に取り入れ、探究的な学びを深めています。地理的なハンディキャップはICTの活用によって克服し、生徒たちは地域に根ざしたテーマを自ら見出し、学びを進化・発展させています。

テーマは「外出が困難な人にも旅の体験を」

「ミライ班」の生徒たちが最初に着目したのは、「外出が困難な方々」に向けた新たな観光体験の提供。
まずはその対象として高齢者を想定し、仮説を立てたうえで地域のグループホームや福祉施設を訪問し、現場の声を聞き取りました。
その中で浮かび上がったのは、以下の2つの課題です。

  1. 家族や友人との面会機会の減少

  2. 施設内外での活動機会の減少

この現状を受け、生徒たちは「懐かしい地元の観光地を訪れることで、喜びや癒しを感じてもらう体験を届けたい」と考えました。
そこから生まれたのが、南島原の人気観光コンテンツ「イルカウォッチング」を活用した新たな企画です。

分身ロボットで届ける、イルカウォッチング体験

生徒たちは、施設の高齢者が実際に外出しなくても自然を感じられるようにと、船上から野生のイルカを鑑賞する様子を分身ロボット『OriHime』で中継する実証実験を実施しました。

しかし、この取り組みの中でいくつかの課題も明らかになりました。

  • 高齢者にとって長時間のイベントは体力的に負担が大きい

  • インターネット回線の不安定さにより映像が粗くなる場合がある

  • 施設職員には説明していたが、参加者本人への説明が不十分だった

特に、「イルカが現れるまで長時間画面越しに待つ」ことに対しては、高齢者に無理を強いてしまったと、生徒たちは振り返ります。

 

ターゲットを変更して、次の実証へ

この反省を踏まえ、生徒たちは次の実証対象として「同年代の特別支援学校の生徒」を設定しました。
長崎県立諫早特別支援学校高等部の生徒がOriHimeを遠隔操作し、口加高校の7名の生徒がガイド役となって、早崎瀬戸の海やイルカの様子をリアルタイムでリポートするバーチャルツアーを実施。
参加した特別支援学校の生徒からは、「イルカの迫力に驚いた。映像を通して口加高の皆さんと旅をした気分になれた」という感想も寄せられ、企画の意図が伝わったことを感じさせる結果となりました。

 

生徒たちの学びと変化

「高齢者」から「同年代の生徒」へとターゲットを変えたことで、企画の伝わり方や体験の満足度が大きく変わったことを実感した生徒たち。

実証を振り返る中で、
「本当にその体験はニーズに合っていたのか?」
「届けたい相手の声をどれだけ聞けていたか?」
といった問いを立て、活発な議論が交わされるようになりました。

ある生徒はこう語ります。
「地域課題に取り組む上で、“Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めないで)”という視点を大切にしたい。島原半島の観光のあり方を変えるフロントランナーになりたい」

このプロジェクトでの経験を、大学の総合型選抜(AO入試)のテーマとして深めている生徒も現れるなど、学びの広がりは着実に生まれています。

 

地域の課題に向き合いながら、自ら問いを立て、仮説を立て、検証し、また改善へとつなげていく。
長崎県立口加高校「ミライ班」の探究の姿勢は、まさにグローカル教育の実践例として注目されています。

 

オリィ研究所は、今後もこういった教育プログラムを通じて未来を担う子どもたちが社会について主体的に考える機会を創出し、テクノロジーと社会のつながりをつくる事業を行ってまいります。

【教育プログラムについて】
教育プログラムは、探究授業、インクルーシブ教育、障害理解、社会課題への向き合い方など、さまざまなシーンで活用いただいております。
※プログラムの内容や時間に関しては、応相談で承ります。

詳しくは、教育プログラム 公式サイト https://orihime.orylab.com/school-service.html をご覧ください。

 

DXハイスクール採択校が分身ロボットOriHimeを通じた対話を体験

【オリィ研究所が提供する教育プログラムとは】
2025年9月1日に開智未来中学・高等学校の生徒さん27名に対して教育プログラムを実施しました。
今回、DXハイスクール採択校でもある開智未来高等学校の取り組みの一環として本教育プログラムを活用いただきました。当日は高校生を中心に、中学生も交えて多様な学年の生徒さんが参加。幅広い視点から活発な意見交換が行われました。

 

【教育プログラム実施の模様】
<オリィ研究所の理念と事業の説明>
まずは、オリィ研究所が理念としている「孤独の解消」に関する説明や、孤独の解消を目指してどのような事業を行っているのかについて説明。生徒の皆さんはとても真剣に説明を聞き、メモをとっている様子も見られました。

<OriHimeパイロットとの対話>
説明の後は、実際にOriHimeパイロットと対話する時間となり、パイロットがなぜこの仕事をしているのかや、OriHimeを使ってどのような仕事をしているのか等をお話し、生徒さんも積極的に質問をしていました。
OriHime-Dによるドリンク配膳も行われ、パイロットとのコミュニケーションで笑顔が多く見られました。

 <意見発表>
対話の後は、それぞれのテーブルで話したことや感じたことをシェアしました。
下記のような意見が上げられ、充実した時間となったことが伺えました。

  • OriHimeは人の分身なので環境や人に配慮できるという話を聞き、AIは人ではないがOriHimeは人そのものなのだと感じた
  • 人と同じような視野をもっていたりモーションで感情が見えるなど工夫された機能が良かった

  • OriHimeで新しい仕事をつくりたいという話が印象的だった、やりたいことも人と話すことで生まれると感じたし、人と話すことで実現されていくと感じた

 

また、最後に全体的な質問として「最近脳にチップを埋め込んで機械を操作するといったよう新しい技術が出てきているが、OriHimeの機能拡張を考えているか」が挙げられ、オリィ研究所より「視線入力でのOriHime操作がすでに実現されているように、その先の展開も考えている。どうやったら使いやすくできるか、より分身として存在を感じられるかを開発していく」と回答しました。
オリィ研究所は、今後もこういった教育プログラムを通じて未来を担う子どもたちが社会について主体的に考える機会を創出し、テクノロジーと社会のつながりをつくる事業を行ってまいります。

 

【教育プログラムについて】
教育プログラムは、探究授業、インクルーシブ教育、障害理解、社会課題への向き合い方など、さまざまなシーンで活用いただいております。

※プログラムの内容や時間に関しては、応相談で承ります。
詳しくは、教育プログラム 公式サイト https://orihime.orylab.com/school-service.html をご覧ください。

 

 

多様な視点と出会う教室 OriHimeによる交流型学習の実践

愛知県瀬戸市にある瀬戸SOLAN学園初等中等部(理事長:長尾幸彦)では、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を活用し、身体に障害のある方々との交流を目的とした遠隔授業に取り組んでいます。


【学校での活用方法】

北海道、九州、大阪に住む身体に障害のある男女4名のパイロットが、日替わりでチューターとして参加しています。はじめは、登校時に児童たちがあいさつを交わす、コミュニケーションのきっかけとして分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を活用し始めました。

子どもたちがOriHimeに慣れてきたタイミングで、「道徳」や「生活」、「プロジェクト学習」などの授業にも適宜取り入れています。学校では、「授業に同級生や先生以外の“大人の視点”が加わることで、子どもたちにとって新たな学びの刺激になるのではないか」との仮説を立て、この取り組みを試行し始めたそうです。

道徳の授業では、教科書教材『道夫とぼく』を使い、「誰に対しても公平に接することの大切さ」について考えました。
この授業には、福岡から参加したパイロットの亮さんがOriHimeを通じて登場。仲間はずれをしたこと・されたことの経験や、教材に関する問いについて、児童たちと共に語り合いました。

また、プロジェクト学習では、北海道在住のパイロット・由紀さんが参加。子どもたちが進めている、学校周辺の生き物を調べてまとめる「デジタル Nature Map」の進捗を報告したり、困っていることの相談に乗ってもらったりしました。ある男子児童が、タブレットで撮影した写真をOriHimeに見せながら「この写真はヒメカメノコテントウだよ」と説明すると、由紀さんは「どうやって名前を調べたの?」「北海道ではあまり見かけないテントウムシだね」と返答。質問に答えるために子どもたちが図鑑を開いて調べるなど、対話を通じて自然に学びを深めていく様子が見られました。

 

【教員の声】

パイロットの皆さんは、子どもたちにとても温かく語りかけてくださるため、子どもたちも自然と会話が弾みます。別のグループへ移動する際には、「もう終わりなの?」「次はいつ来てくれるの?」といった声が上がるほどでした。
日頃、長い時間を共に過ごしている私たち教員だけでなく、OriHimeを通じて遠隔から授業に参加してくださる方々など、多くの人が授業に関わることで、子どもたちは知識や技能だけでなく、感情の豊かさも育まれていくことを改めて実感しています。また、共に時間を過ごす中で、障害への理解も自然と深まっていくことを期待しています。