2026年6月、読売新聞東京本社に3台の分身ロボットOriHimeが導入されました。
現在、3人のOriHimeパイロットが読売新聞の社員として働き、会社見学ツアーのガイドとして活躍しています。全国から訪れる見学者に向けて、会社の案内をしたり、編集局についてのクイズを出したり。OriHimeを肩のりリュックに乗せて本社を巡っています。
ツアーの中では、OriHimeが水分補給を促したり、子どもたちと一緒に記念撮影をしたりする場面も。
今回は、読売新聞でこの取り組みを進める関さん、現地でガイドを担当する林さん、そしてOriHimeパイロットのりおんさんにインタビューを実施しました。
OriHime導入の背景から、実際に働いてみて生まれた変化、そしてこれからの可能性まで。現場で起きているリアルな変化に迫ります。
「働きたい」を、場所にとらわれず実現する。読売新聞の挑戦
── OriHimeを導入することになった背景やきっかけを教えてください。

関さん「読売新聞では、2026年6月からOriHimeが活躍しています。東京本社には3台を配置していて、3人のパイロットが社員として働いています。
業務内容は、会社見学ツアーの案内役です。全国から見学のお申し込みがあり、多いときには1回あたり60人ほどの方を受け入れています。
ツアーでは、林さんをはじめとするガイドとOriHimeが一体となって、本社の中をご案内しています。特に好評なのが、パイロットが担当する編集局についてのクイズです。見学者の皆さんが楽しみながら答えてくださっています。
『OriHimeが、会社見学の中で一緒に働いている』ということを、実際に感じていただける場になっています。
背景には、読売新聞が定めている『読売信条』があります。報道・言論機関として進むべき方向を示し、読者や社会の皆さんと約束するものです。その中に、『個人の尊厳と基本的人権に基づく人間主義を目指す』という指針があります。
この理念に基づいて、障害のある方々が生き生きと生活し、活躍できる社会の実現を目指して、取材や報道にとどまらず、幅広い活動に取り組んできました。
そんな中で、オリィ研究所の吉藤代表から事業や理念について伺う機会があり、読売新聞の考え方と多くの共通点を感じたことが、今回の取り組みのきっかけになっています。」
── 導入にあたり、期待していたことや目指していた姿を教えてください。

OriHimeに興味を持っていただき、パイロットがその場にいなくても案内役として活躍している様子を見てもらうことで、障害のある方々の多様な働き方が実現されていることを知っていただきたいと考えていました。
また、その働き方を実現するために、オリィ研究所の皆さんをはじめ、多くの企業や関係者が取り組んでいることについても、ぜひ多くの方に知っていただきたいと思っていました。」
── 今回、OriHimeパイロットとして障害のある方を新たに雇用された背景や想いを教えてください。

ただ、弊社としては直接雇用をして、読売新聞の社員、仲間になってもらいたいと考えました。
会社の一員として、会社のことや新聞の制作について深く理解してもらい、より強い思いを持って、見学者の皆さんに読売新聞のことや新聞業界のことを伝えてほしいと考えたからです。
今回のパイロットは3人とも女性です。
1人は以前FMラジオのパーソナリティーとして読売新聞のニュースを読んでくださっていた方。もう1人は、8年前に当社の記者が分身ロボットのカフェを取材した際に協力してくださった方。そしてもう1人は、大学を卒業したばかりで、子どもの頃から新聞を読むことが習慣だった方です。3人とも非常に意欲的に仕事をしてくれています。」
── 数ある業務の中で、会社見学ガイドという役割にOriHimeを活用しようと考えた理由を教えてください。

OriHimeがガイドと一緒に会社を紹介することで、読売新聞に対して好意的な印象を持っていただけるのであれば、私たちとしても非常に嬉しいと思っています。
私たちにとって会社見学は、七夕のようなイメージもあります。
『OriHimeが織姫、見学者の方々が彦星、そして読売新聞が天の川』
OriHimeを通して、人と人が出会う場所になればと思っています。」

OriHimeと一緒に巡る、読売新聞本社
OriHimeは、参加者の皆さんと一緒に本社の中を巡りながら、会社見学のガイドをしています。
ツアーの途中では、OriHimeから参加者にクイズを出しています。参加者の皆さんに問いかけながら進めることで、ただ説明を聞くだけではなく、一緒に楽しみながら読売新聞について知ってもらえるようになっています。
また、OriHimeを「肩のりリュック」に乗せて、参加者と一緒に館内を巡っています。OriHimeが参加者のすぐそばにいることで、自然と声をかけてもらったり、会話が生まれたりすることもあります。
ツアー中には、OriHimeから水分補給を促す場面も。「水分補給してくださいね」とOriHimeから声をかけることで、会社見学の中にちょっとしたコミュニケーションが生まれます。
子どもたちとの交流も印象的です。OriHimeと一緒に記念撮影をするお子さんもいて、会社見学そのものだけでなく、OriHimeとの出会いを楽しんでもらえていると感じます。

「かわいい」から「一緒に働く人」へ。会社見学で生まれた変化
── 実際に会社見学で活用されてみて、来訪者や社内からどのような反応がありましたか。

林さん 「来訪者の方は、びっくりされる方も多いです。どういったものなのか分かっていない方も多くて、最初は『どういうことなんだろう?』と少し戸惑われる姿も見られました。
一方、社内の方は、『かわいい!』『どういう仕組みなの?』という反応がすごく多いです。やっぱり、実際に見ると、どういう仕組みなのか気になる方が多いですね。」
── OriHimeがガイドを行う会社見学を実際に行って、印象的だったエピソードを教えてください。

林さん「数カ月ですが、いろいろなことがありました。最初は、OriHimeを『ロボット』として見ている方が多くて、『かわいいね』『好きな食べ物は何?』といった感じで接する方もいました。
でも、だんだん社員の意識も変わってきて、私たちと一緒に働いているという意識が強くなってきたのか、最近では『頑張ってね』と声をかけてもらったり、『なんで読売新聞を選んだの?』と聞かれたりする場面も増えてきました。1人の人が仕事をしているということを認めてもらえたような、そんな場面が最近は多く見られます。
特に印象的だったのが、車椅子の小学生のお子さんです。OriHimeにとても興味を持ってくださって、『質問ある?』と聞いたところ、『いつからお仕事してるんですか?』と聞いてくれました。
説明をたくさんしなくても、OriHimeが『働いている人』だということが伝わったんだなと感じて、とても印象に残っています。
もう一つ印象的だったのが、別の小学生のお子さんです。
『OriHimeっていうんですよ』と説明したところ、『織姫、聞いたことある』と言ってくれて、『織姫と彦星の織姫だ』と。
そこで、『そうなんだよ。実はそういう風に名前がついているんだ』と話をして、その子に『あなたが彦星なんだよ』と伝えました。そして、『読売新聞が天の川なんだ。だからつないでいるんだよ』と話したら、とても感動してくれて。
最後にその子が、『彦星が増えるといいね』と言って帰っていったんです。どういう意味だったのかは何度も考え直しましたが、その言葉がすごく印象に残っています。」
── 導入前に想像していたことと、実際に運用してみて感じた違いや、新しい発見などがあれば教えていただけたらと思います。

林さん「やっぱり、人なので、仕事をしていくと一人ひとり個性が違います。『この人はこういう案内だな』『この人はこうガイドするのだな』というのが分かってきて、今ではもう普通に私たちのメンバーの一員として見ています。
運用前は、もっと気を使うのかなと思っていたんですけど、全然そんなことはなくて。普通にふざけたりもしますし、『今日疲れたんだよね』みたいな話もします。実際に運用してみて、やっぱり『人だな』と感じています。」

OriHimeと働くことで、広がった世界。パイロット・りおんさんの声
OriHimeパイロットとして読売新聞で働くりおんさん。
以前からOriHimeパイロットとして約2年間働いていましたが、大学卒業のタイミングで、読売新聞の会社見学ガイドとして働くことになりました。
ここからは、実際に働いて感じた変化や、OriHimeを通じて広がった可能性について話を伺いました。
── 読売新聞でOriHimeパイロットとして働くことになったきっかけを教えてください。

りおんさん「両親が新聞好きで、毎日、新聞を読んでいました。小さい頃から両親が新聞を読んでいる姿を見ていて、一緒に読んでいましたし、中高生になってからも内容について意見交換をしていました。
大学卒業のタイミングで、本社見学の案内役を募集していることを知りました。それまでにも約2年間OriHimeのパイロットをしていたので、新しい形で新聞に関わる仕事をしてみたいと思ったことがきっかけです。」
── 働き始める前に感じていた期待や不安を教えてください。

りおんさん「これまでは、他のパイロットやカフェのスタッフ・お客さんとのコミュニケーションがメインでした。
一方、読売新聞では社員の方や見学者の方への対応が中心です。カフェでメニューを説明したり、フリートークをしたりする仕事とは違うので、どのようなコミュニケーションが求められるのかなという不安はありました。
また、これまではシフト制でフレキシブルに働いていましたが、読売新聞では1日の勤務時間などが決まっています。週4日間、1日4時間という働き方で、慣れないうちは仕事が終わった後に疲れてしまうこともありました。でも、みんなが相談に乗ってくれて、寄り添ってくれたので、今は楽しく働いています。」
── 初めて会社見学ガイドを担当した時の感想を教えてください。

りおんさん「最初は見学の流れや内容を理解して、その後に一部の案内を担当しました。見学者の方が熱心にメモを取りながら話を聞いてくださることが印象的でした。パイロットの声にも耳を傾けてくれて、興味を持って話しかけてもらえることが嬉しかったです。
一方で、見学者の方に間違った情報や曖昧なことを伝えてはいけないので、そこはプレッシャーもありました。編集局についてのクイズや、エレベーターホールでのちょっとしたコミュニケーションなどを楽しんでもらえたのも嬉しかったです。」
── 来訪者との交流の中で印象に残っている出来事を教えてください。

りおんさん「小学5年生の団体が来たときのことが印象に残っています。OriHimeの一挙手一投足に『かわいい』と反応してくれて、『はーい』と呼びかけると、全力で反応してくれました。パソコンの前で笑顔になっている様子も見えて、嬉しかったです。
OriHimeはロボットですが、AIではなく人間が操作しています。普段はロボットを見て緊張する人も多いと思うのですが、生徒さんたちが怖がらずに楽しんでくれたことが、とても嬉しかったです。」

新聞の「その先」にいる人たちが見えるようになった
── 読売新聞の会社見学ガイドを担当する中で、ご自身に変化はありましたか。

りおんさん「一番大きかったのは、新聞により興味を持つようになったことです。研修の中で、各部署の方にどんな記事を担当しているのか、記事を書くときに心がけていることや、記事を書くやりがいなどを聞きました。
一つの記事を作るまでに、取材、執筆、チェック、見出しを付ける、レイアウトを決めるなど、たくさんの工程があります。その中で、たくさんの人が関わっていることを知りました。記事の裏側にいる人たちを想像できるようになって、新聞を読むことが面白くなりました。
以前は難しい内容の記事があると、『時間のあるときに読もう』と先延ばしにすることもありました。でも今は、隙間時間にさっと読んでみようと思えるようになって、新聞を読むハードルも下がりました。」
── OriHimeを通じて働くことで感じるやりがいや楽しさを教えてください。

りおんさん「障害があると、外出することが難しかったり、長時間働くことが難しかったりします。でもOriHimeを使うことで、家にいながら働くことができる。実際に出社して働くことは難しくても、OriHimeを通じて多くの人とコミュニケーションを取ることができて、より多くの業務に関われています。
OriHimeを使うことで、夢や希望が広がりました。これまでだったら難しいと思っていたことにも、挑戦できる可能性が広がったと感じています。」
── 今後挑戦したいことを教えてください。

りおんさん「全世代で新聞離れが広がっているので、会社見学だけでなく、OriHimeでいろいろなイベントに参加して、新聞の魅力を発信していきたいです。お子様とコミュニケーションを取りながら、新聞に触れ合う体験もできたら嬉しいです。
それから、読売新聞のビルは箱根駅伝のスタートとゴール地点になっています。私は箱根駅伝が大好きなので、いつかOriHimeで見学したり、応援したりしてみたいです。」
── これから同じように就労を目指している人へ、メッセージをお願いします。

りおんさん「OriHimeに出会うまでは、障害を持っていると仕事ができない、必要とされていないと感じていました。でも、OriHimeパイロットには、障害があっても働いている人がたくさんいます。
自宅や病院から働いているパイロットもいます。外で働くことが難しくても、OriHimeを使うことで外の世界とつながって、言葉を交わして、時間を共有することができます。
私も仕事を始めたときは不安が多かったですが、パイロット同士で支え合ったり、会話したりする中で、自分のことも少しずつ受け入れられるようになりました。
そして、自信を持てるようになりました。どうしても、できることよりできないことに目を向けてしまって、気分が落ち込むこともあります。でも、OriHimeを使うことで、できることを増やしていくことができます。
OriHimeを必要としている人は、障害のある人だけではありません。高齢の方や育児、介護、リモートワークなど、さまざまな場面で活用できると思います。障害の有無にかかわらずOriHimeを活用する場が広がれば、働き方ももっと広がっていくと思います。
最近は『OriHimeって聞いたことある』『遠隔操作のロボットだよね』『どこから話しているの?』と聞かれることも増えてきました。OriHimeを知ってくれる人がもっと増えたらいいなと思います。」

読売新聞の「外」へ。OriHimeが広げるこれからの可能性
── 今後、OriHimeを活用して挑戦していきたいことを教えてください。

1つは、8月に実施した横浜でのイベントです。そこに読売新聞のブースを出し、新聞を使ってお子さんたちにさまざまな体験をしてもらう中で、OriHimeについても学んでもらうワークショップを行いました。
もう1つは、10月に愛知で開催されるアジア大会とアジアパラ大会です。読売新聞はアジアパラ大会のスポンサーとして参画していて、会場にブースを設置する予定です。こちらでも、横浜のイベントと同じような体験型の催しを準備しています。
また、愛知・名古屋の支社の記者や写真を担当する社員などとも連携しながら、出前授業のようなこともできればと考えています。会社見学の中だけではなく、PRという意味でも、どんどん会社の外でもOriHimeに活躍してもらいたいと思っています。」

── OriHimeの導入を検討している、他の企業の読者の方へメッセージをお願いします。

OriHimeは、そのような方々が場所を問わずに就労できる、仕事ができるという道を開いてくれる存在だと思っています。
私たちの取り組みも、2026年6月に始まったばかりです。今後も活躍の場を広げていきたいと思っていますし、社内でも社員への周知を進めながら、さらに良い効果が生まれてくれればと期待しています。
OriHimeの導入を検討している企業の方に一番お伝えしたいのは、やはり現場を見ていただくことです。今日のように、実際に読売新聞のOriHimeの活躍を自分の目で見ていただくことも、一つの方法ではないかと思っています。
ぜひ読売新聞に来ていただいて、OriHimeがどのように働いているのかを実際に見ていただければと思います。それを通じて、OriHimeへの理解が社会に広がっていけば嬉しいです。」

OriHimeが案内する会社見学を通して、見学者とパイロット、そして現地で働くスタッフの間に、少しずつ新しいつながりが生まれています。
「かわいいロボット」という最初の印象から、仕事をする一人の人へ。その変化の積み重ねは、障害の有無にかかわらず、場所にとらわれずに働くことの可能性を伝えるきっかけにもなっています。
2026年6月に始まった読売新聞とOriHimeの取り組みは、まだ始まったばかり。
会社見学にとどまらず、イベントや出前授業など、これからさらに活躍の場を広げていくOriHime。その先に、どのような新しい出会いや働き方が生まれていくのか、今後の展開にも注目です。




