栃木県さくら市に本社工場を構える大和鋼管工業株式会社では、2026年8月から、分身ロボットOriHimeを活用した実証実験を行っています。
今回の実証では、来訪者の受付や納品業者への対応、代表電話の取り次ぎなどをOriHimeパイロットが担当。遠隔で受付業務を行っています。
OriHimeの導入に至った背景や、実際に運用して見えてきた変化について、大和鋼管工業の八木澤さんと、パイロットとして働く風見優羽さんにお話を伺いました。
受付業務から始まる、大和鋼管工業の新たな挑戦
── OriHimeを導入することになった背景やきっかけを教えてください。

八木澤さん「当社の社長が分身ロボットカフェを訪れたことがきっかけです。そこで、障害のある方がOriHimeを通じて働いている姿を見て、ロボットを介したコミュニケーションに可能性を感じました。
『当社でも、何かOriHimeを活用できる業務があるのではないか』と考えたことから、今回の導入につながりました。」
── 導入にあたり、期待していたことや目指していた姿を教えてください。

受付や電話対応によって通常の業務が中断したり、滞ってしまうことがありました。一つひとつは小さなことですが、そういったところでロスが生まれ、スムーズに業務がつながっていかないというところを課題に感じていました。 OriHimeパイロットに受付や電話応対の業務お願いすることで、業務の効率化につなげられないかと期待していました。」
── 障害者雇用としてではなく、業務効率化を主眼に置き、受付・電話取次という役割にOriHimeを活用しようと考えた背景を教えてください。

そこで、弊社の業務の中でその強みを十分に活かせる場所はどこかと考え、受付や電話の応対に行き着きました。
来客の応対や電話の取次ぎは、いわば会社の顔です。最初のコミュニケーションの窓口になるところでもあります。
OriHimeの強みと弊社の課題が合致するのがまさにこの領域だと考え、受付・電話取次の業務での活用を提案させていただきました。」

OriHimeが受付にいることで生まれたコミュニケーション
── 実際に活用される中で、来訪者の方や社内の方からどのような反応がありましたか?

八木澤さん「ポジティブな意見で言いますと、ロボットが受付をしているというのが結構印象に残るようで、『最先端ですね』と言ってくださるお客様もいました。
一方で、ロボットにあまり馴染みのない方もいらっしゃいます。『どこから人の声がしているんだろう』とびっくりされる方や、ロボットというものに抵抗感があり、少し怖いと感じる方も中にはいました。
社内では、あらかじめOriHimeを導入するという話をしていましたので、結構皆さん興味を持ってくれていました。
実際に受付で動いているところを見に来てくれたり、パイロットの方と会話することもありました。今までなかったコミュニケーションツールとして、活躍していただいている認識です。
見た目にインパクトがあるので、会話のきっかけにもなります。動きも豊富なので『動きがかわいい』という意見もありました。」
── OriHimeが受付を行う中で、印象的だったエピソードを教えてください。

八木澤さん「パイロットの方が皆さん明るく丁寧に接してくれるので、お客様からも『明るい』『ほっこりする』と感じていただいているようです。
ロボット越しではありますが、冷たい機械的な対応ではなく、ちゃんと中に人がいるということで、温かみのある対応になっています。そういったところを受け入れていただいているイメージです。」
── 導入前に想像していたことと、実際に運用してみて感じた違いや新たな発見はありますか。

八木澤さん「今まで直接やっていたコミュニケーションがロボット越しになることで、少し齟齬が発生するのではないかと懸念していました。
ただ、実際はロボット越しでも中から人の声が聞こえたり、動きが加わることで、お客様へ伝えたいことが伝わりますし、お客様の方もそれを受け入れてくれています。
また、当初は予想していなかった動きや不測の事態、それから我々が今まで行っていた受付や電話の取次ぎの中での課題が、今回の検証で見えてきたという、貴重な学びもありました。
受付や電話対応は、これまで特定の人が担当していました。そのため、その人の経験や、感覚で行っていたものが多く、パイロットの方に伝えるときに、文字にして実際の手順を整理することで、属人化していた業務を明確にできたかなと思います。」

「ここで受付として働いている」──優羽さんが感じるOriHimeでの仕事
今回、大和鋼管工業の受付を担当しているひとりが、OriHimeパイロットの優羽さんです。
現在は週2回、水曜日を中心に、午後2時から4時までの2時間、OriHimeを通じて受付業務を行っています。
── 実際に活用される中で、来訪者の方や社内の方からどのような反応がありましたか?

優羽さん「新卒で就職した会社が住宅メーカーだったので、もともとパイプは身近な存在でした。20〜30年前のことを思い出して、少し懐かしい気持ちもありました。10年ほど現場から離れていましたが、チャンスかなと思って応募しました。」
── 働き始める前に感じていた期待や不安を教えてください。

優羽さん「働き始める前は、不安のほうが大きかったです。10年ほど現場から離れていたことに加えて、病気の特性上、言葉が出てこなかったり、文字を書くことが難しかったりします。会社名やお名前をメモすることも難しいので、きちんと対応できるのか、迷惑をかけないか心配でした。」
── 初めて受付・電話対応を担当した時の感想を教えてください。

優羽さん「初めてお客様の対応をしたときは、頭が真っ白でした。1ヶ月はOriHimeの同時ログイン機能を使ってOJTのような形で社員さんに見守っていただきながら業務を行い、、9月から独り立ちしました。」
── 来訪者や納品業者の方との交流の中で印象に残っている出来事を教えてください。

優羽さん「定期的に来てくださる業者の方とは、だいぶ顔なじみになってきました。『こんにちは』『今日も暑いですね』といった会話をしながら対応できるようになったことも、とても嬉しいです。
一方で、トラックのドライバーの方など、OriHimeを見るのが初めての方は、『どこから声が出ているの?』と驚かれることがあります。
OriHimeを初めて見る方から『テレビで見たことがある』『初めてOriHimeを見た』と言われたり、『お会いできてよかったです』と言っていただいたりすることもあり、嬉しく感じます。」
── 社員の方との交流については、どのように感じていますか?

優羽さん「社員の方が受付を通っていくことはあまりないのですが、一番最初に現地のOriHimeに入って、研修をしたときには、何名か社員の方が見に来てくださいました。
OriHimeにすごく興味がある方たちは、いろいろと話をしてくださって、皆さんが興味を示してくださっているのを感じました。
今も優しく後ろから見守ってくださっているように感じています。」
── 大和鋼管工業での受付業務を担当する中で、ご自身に変化はありましたか。

優羽さん「社会に復帰できたような感覚があり、嬉しいです。社会の一員、会社の一員になれたという感覚を、久しぶりに感じています。大和鋼管さんで社員の一員として仕事ができることに、喜びを感じています。」
── OriHimeを通じて働くことは、在宅で仕事をしている感覚に近いですか?それとも、オフィスの受付で働いている感覚に近いですか?

優羽さん「私の場合は、在宅ではなく大和鋼管工業の受付で働いているという感覚に近いです。」

OriHimeだからこそできる仕事を、もっと増やしたい
── OriHimeを通じて働くことで感じるやりがいや楽しさを教えてください。

優羽さん「受付の仕事は楽しいです。実際に仕事をしてみて、こういったお仕事がもっと増えていくといいなと思っています。」
── 今後、挑戦されたいことがあれば教えてください。

優羽さん「OriHimeは接客にもとても向いているロボットだと思うので、受付だけでなく、例えば販売のお手伝いなど、接客に関わる仕事にも挑戦してみたいです。
こういった仕事がもっと増えて、OriHimeだからこそできる仕事の幅が広がっていくといいなと思っています。」
── これから同じように就労を目指している人へ、メッセージをお願いします。

優羽さん「なかなか外で働くことができない方が、OriHimeを通じて受付や電話対応などの仕事ができるというのは、とても素晴らしいことだと思っています。
OriHimeを置いてくれる企業がどんどん増えていけば、私たちのようになかなか外に出られない人たちが働く場所も増えていくと思います。そうなると嬉しいです。」

OriHimeをきっかけに、これからの働き方を考える
── 今後、OriHimeを活用して挑戦していきたいことを教えてください。

八木澤さん「今回の実証実験で見えてきた課題だったり、今後の運用について、分析・整理をしていきながら、弊社が今後どのようにこういったデジタル技術を活用していくかという、働き方の改革につなげていけたらと考えております。」
── OriHimeの導入を検討している、他の企業の読者の方へメッセージをお願いします。

八木澤さん「最初に話を聞いたときは、ロボットということで、どう活用するのかあまりイメージできませんでした。
実際に検証を行ってみて、OriHimeというのは単なる省力化とか無人化のツールということではなく、実際に遠隔ではありますけれども、中にいる人とコミュニケーションを取れる、温かみのあるコミュニケーションツールだと感じています。
実際に導入してみることで、課題が見えてきたり、工夫するポイントなども出てくると思います。
他社さんでも、まずは実証実験という形から取り入れてみて、実際に自社に合った活用方法を探ってみてもいいのではないかなと感じています。」

今回の実証実験を通じて、大和鋼管工業では、受付や電話対応といった日常業務の中にある課題だけでなく、これまで気づかなかった業務の進め方や、人と人とのコミュニケーションについても新たな発見が生まれました。
一方、優羽さんにとっては、OriHimeを通じて「ここで受付として働いている」という実感を持ち、社員の一員として仕事ができる喜びを感じられる機会となっています。
OriHimeは、単に業務を効率化するためのロボットではなく、離れた場所にいる人が、その場の一員として人と関わりながら働くことを可能にする存在でもあります。
今回の取り組みをきっかけに見えてきた、OriHimeとともに働く新たな可能性。これからどのような仕事や働き方につながっていくのか、今後の広がりが期待されます。




